ただ、クレイジーガイはアーセナルにもいます。ゴールハンターに勝るとも劣らないホークアイを持つエジルです。このまま試合終了かと思われた80分の得点をどれだけ欲していたか。勝ち点1ずつ分け合う結果となったのは残念ですが、彼の目には今回の結果はどのように映ったのでしょうか。納得?それとも悔恨?
エジルへの期待は日増しに大きくなる一方です |
広いがゆえに空間の隅々を自在に扱える。まるで並みのプレイヤーには見えていない場所が常に視界に入っているようです。そんなエジルにここぞという場面でボールが集まるのは、彼が一番チームでうまいからに他なりません。
それが子どもであれ大人であれ、チームで一番うまい人間にボールを預けるのは、議論の余地すらない当たり前の話です。そうした方がチャンスが生まれる回数が多くなるからです。チームメイトもそこには一切の反論はないはずだし、実際彼からアシストが6も生まれています。間接的にも、彼を経由したアシストであればその数はもっと増えるでしょう。
無から有を作り出すことほど難しいものはありません。出来ないプレイヤーはどう足掻いてもできないし、ある意味でこれは先天的なギフトや持って生まれたセンスによる部分も大きいのではないかと思います。鍛えてできないとは言いませんが、クオリティの問題です。
生粋のスコアラーであるスアレスのような真似を誰かができるとは思えません。ロナウドもメッシもスペシャルですが、点の取り方やスタイルに差異はあれど、彼も世界の頂点に君臨するフォワードであるのは誰もが認めるところでしょう。だからこそ、ポジションは違えど、空間認識能力に秀でたエジルのような存在もまた、世界レベルでオンリーワンの存在だと思うのです。
元彼のボスであるモウリーニョをして世界最高の10番と言わしめ、現在の彼のボスであるベンゲルには5000万ユーロの価値があると絶大な評価を置かれているのは、合点も納得もいくものです。
過去を見渡せば、優れた司令塔はたくさんいました。バルデラマ、ジーコ、リケルメ、日本で言えば、木村和司にラモス瑠偉など。司令塔という定義もたくさんありますが、2014まであと一月もない中で、トップ下が司令塔と見なされた時代から、ピルロやベロン、名波浩などの出現によりボランチも司令塔の一つと見なされる時代に変わったように、フットボールの戦術もトレンドも過去から大きく変遷しています。
豊富にあるキックの種類を使い分けられる左足の技術はまさにパーフェクトの一言。横浜Fマリノスの中村俊輔も同じレフティーですが、ボールの持ち方、フェイントの入れ方、体の使い方、間合い、緩急が日本の元背番号10とダブって見えます。
前半26分、自陣左の密集地帯でキープするエジルのスペースメイキングから、何人かを経由して、一気にゴール前の決定的チャンスが生まれました。シュートには至りませんでしたが、エミレーツの観客がものすごく湧いたのはテレビの前でも十分に伝わってくるものでした。47分のCKから始まる彼の切り替えし二回は、前日に見せたスアレスの個人技を彷彿とさせるものでしたね。50分は彼のホークアイがファーで待ち構えるウィルシャーの姿をとらえ、あわやという場面を創出しています。
チームで一、二を争う技巧派のカソルラは、並みのプレイヤーでは追いつけないレーンを快走している感じですが、一方のエジルはそのカソルラにも見えていないもう一周外側の、例え下手で恐縮ですが、いわば秘密のレーンを走っているような感じです。それは決して優劣ではありません。
ベンゲルが三枚替えしたのにエジルを代えなかったのは、彼は代えが利かない唯一無二の存在であり、彼ならこのジリジリした状況をなんとかしてくれるという大きな期待があったからでしょう。託したくなる雰囲気があるんです。
対してエバートン。ストークのようなパワーに頼ったフットボールではなく、それはいわば、洗練された力強さですね。最後の最後にしてやられました。デウロフェウ。ファブレガス並みに印象的な名前の19歳のあの一振り。あのシュートはないでしょう。トーキック並みに速い上にパワーがある。もう一度言いますが、デウロフェウ。多分一生忘れない名前になりますね。
ルカクにほとんど何もさせなかったコシエルニーも相当素晴らしかった。今季の彼の一貫性ある安定ぶりを見れば、絶対外せないディフェンスのファーストチョイスなのも分かります。フェルマーレンの出番が限定的になるのも致し方ないでしょう。
実際、対面の勝負では彼に軍配があがっていましたし、彼がいたから、ドログバ二世と言われるフィジカルモンスターが暴れられなかった。さながら、手の付けられない野獣を見事手なずけた調教師のようです。
あとは、返す返すもロスタイムのジルーのロングレンジからのボレー。あれが決まれば、確実に彼が昨夜のヒーローでしたね。勝負も時の運だとすれば、試合終了間際の豪快な一撃が無情にもバーに嫌われるのもその一部。仕方ありません。天を仰ぐのも分かりますし、笑ってしまうのも分かります。ジルーのゴールは今節はお預け、期待は次節のシティー戦に持ち越しです。
ただ、まあそれだけに悔しい。しかし、これは悔恨なんかではなく、個人的にはどこか納得してもいます。結果引き分けですが、もう一度見てみたいと思わせてくれるくらいのベストバウトでした。ユナイテッドに負けた時の、感情的に嫌な感覚はありません。エミレーツで勝てなかったのは事実。アーセナルは強いです。でも、昨夜のエバートンも同じくらい強かった。
そして、二位との勝ち点差は5です。
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